さる腕流ピアノの構え方

※あくまで僕なりの考え方や方法論の紹介です。
体のつくりは一人一人違います。参考情報程度に捉えて下さい。

もそも人間の手というものは、さる腕かどうかに関わらず、普通に鍵盤のところに手を持っていけば親指が上を向く構造になっている。そして、手っ取り早く前腕を内転させることで弾きやすい角度(ほぼ水平)にしようとすると、さる腕でなくとも関節(肘)の可動域をほぼ使い切っており、これは好ましいことではない。可動域の中心付近から大きく外れた状態で関節を動かし続けることは、故障の危険性を高めることに他ならないからである。やはり肘から先だけでの内転に関しても、基本の構えの状態で10〜20度くらいの余裕を残しておきたい。

ということで、肘関節から前腕を捻る角度を最小限に抑えるために取れる方法は3つ。
@腕を体から横方向に少し離して構える
A肩関節を内転させて調節する
B多少傾いててもお構いなし、そのまま弾いちゃえ
…他にもあるかもしれないが、とりあえず今の僕には思い付かない(汗)。

(以下詳説)
@腕全体を持ち上げて角度を変えることで弾きやすいポジションを確保する方法。極端な話、腕を真横に上げれば当然掌は水平に下を向くから、その状態で肘を前方に曲げれば前腕を一切捻ることなく鍵盤と平行に構えられるじゃないか、という発想である。使うのが肩口の三角筋だけなので肘・手首・指といったピアノ演奏で最も忙しく動かす関節に影響がないのが利点。しかし、重力奏法の観点からは、体から腕が離れる分、重さのかけ方のコントロールにやや難があり、とりわけ絶対的な音量の必要な場面には適さない。上腕に角度が付くので、このポジションをメインにするなら相対的に椅子は低めになる。他のポジションがメインなら、一時的に背中を少し丸めて肩の位置を下げれば良いだろう。

A腕を脱力し、体の横にぶら下げた状態でなら、手の甲を正面に向けてもまだ十分な可動域が残っている。これは肘だけでなく肩関節も動員しているからで、肘を曲げなければ可動域を残したまま手を前に上げるのはたやすい。逆に肘が曲がった状態だと、とりわけ日常生活では、より筋肉の使い方がシンプルな前腕の内転を中心に、可動域を使いきってなお手を内転させたい場合に肩の内転が使われる傾向にあるが(←僕の自己観察。ひょっとして違う人もいるかも?)、これを理解し、かつ慣れてコツをつかめば、意識したときのみ使い方を逆転させることは可能である。試しに鍵盤の上に置いた手を、@のように体から肘を離すことなく水平以上に内転させてみると、その動作が肘関節の限界を超えた捻りではなく、肩関節の内転によっていることが分かると思う。そこから、肘の力を抜いて演奏時のポジションまで戻し、慣れていないことによる肩周辺の強張りを取り去れば良い。これで、指を動かす筋肉の周辺に過剰な捻りが加わることが回避されるのである。腕が体から離れすぎないからパワーも出る。…が、やはり少々複雑、つまり多くの筋肉を動員することになるので、伸びのある自然な音は出しにくく、あくまで「コントロールされた音」という印象が許容される場面で使いたいポジションでもある。また、肘を曲げるほど肩の負担が増すので、高めの椅子でやや鍵盤を突き放すような姿勢で弾くと上手くいくようだ。

グダグダと書いたが(しかもまだBが残っているが)、恐らくピアノを弾いたことのある大半の人は既に、無意識のうちに@とAの中間のポジションで弾いているのではないかと思う(場合によっては次のBも混じってるかも)。椅子の高さの個人差は、座高以外に、どのくらいの割合で@とAを使い分けているかにも関係しているわけだ。また、その割合は通常、鍵盤の両端付近では@、肩の正面より内側(つまり鍵盤中央付近と右手の低音&左手の高音)を弾く際にはAが多くなっているはずで、時折陥ってしまう「右手と左手が極端に離れたテクスチュアを弾くと途端に音が軽くなってしまう」という現象は、腕の使い方をチェックすれば(具体的には@の割合を減らせば)改善することが多い…と思う。

早い話が、このページに書いてあることは、多かれ少なかれもう皆やっていることなのである。…なら今更解説することもないのかもしれないが、自らの動きを分析・整理して理解しなおすことは、角度調節のより多くを肩に任せ、指の動きに影響する可能性のある、肘関節からの前腕の内転の幅を抑えることを可能にしてくれる。そして僕の場合、「さる腕」だったからこそ、早い段階でこれに気付くことができたと思っている。さて、残るはB(ちなみに、今現在の僕の基本ポジションはこれが軸になっている)。個人的には、さる腕であることがむしろ有利に働くこともあるんじゃないかと思っているポジションでもある。

B特に込み入った説明はいらないだろう。多少の傾きを許容することで、全くもって自然に、一切の無駄なく鍵盤に重さをかけることが出来るのである。そして、演奏している楽器の持っている最も自然な響きが得られるのはこの弾き方だと僕は思っている(悪く言えば、ピアニストが責任を放棄した楽器任せの音とも言えるが…)。他の利点としては、親指の打鍵時に物を掴む方向に動かす筋肉(日常生活で使うため何もしなくても充分鍛えられている!)が動員できること。欠点は、逆に親指以外の指先を曲げる筋肉の使用は音に反映されにくくなることと(傾いてますからね)、鍵盤の外側から内側へと向かう音階やアルペジオがやや弾きにくくなることである(外転してるのだから当然と言えば当然か)。また、このポジションで弾く際の最も重要な注意点として、小指付け根の関節が絶対に逆に曲がらないようにすること。でなければ、せっかく旋律や支えになるバスを担当することが多い小指側に重心がかかる弾き方をしているのに、台無しである。

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